大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1411号 判決

一、控訴代理人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除いたその他の部分を取消す。被控訴人が昭和二三年三月二日別紙物件目録記載の土地につき自作農創設特別措置法第三〇条の規定によりなした買収処分中群馬県吾妻郡坂上村大字大戸字石畦四、七七五番の七山林一四町二畝一五歩以外の土地に関する部分は無効であること確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の陳述した主張の要旨は、左記の外は、原判決の事実に記載するところと同一であるから、これを引用する。控訴代理人は、本件買収処分の無効原因の第二として、本件買収処分は左記理由により自作農創設特別措置法(以下単に自創法という)第三〇条の濫用であつて、無効であると述べた。

(一)  本件土地一六五町七反六畝一二歩のうち群馬県吾妻郡坂上村大字大戸字菅原四、七七四の二原野外二二筆の一部三二町九反二畝の部分は開墾予定地として買収されたものであるが、昭和二六年四、五月中行政代執行により右地上の立木竹等の伐採を敢行しながら、その後一年半を経過してもなお開墾されていないことによつても明らかなように、右三二町九反二畝の部分は全く開墾に適しない土地である。すなわち、開墾不適地を開墾予定地として買収したものである。

(二)  本件土地一六五町七反六畝一二歩は開墾予定地としての右三二町九反二畝のために買収されたものであるが、内地における営農上必要な附帯地の開墾地に対する面積の割合は三割を標準とするから、右開墾予定地の五倍に相当する本件土地は、附帯地の買収としては、その面積が著しく過大である。

(三)  仮りに本件土地のうち右開墾予定地を除く残地一三二町八反四畝一二歩の部分が大鳴石地区の開墾地に対する附帯地として買収されたものであるとしても、それは全く不要な土地を買収したことになる。けだし、大鳴石地区の総面積は二八六町八反五畝一四歩、その在住開拓民の戸数は一〇一戸、その開墾地の面積は二二三町三反五畝六歩であり従つて右地区の総面積から開墾地の面積を差引いた残地六三町五反八歩は未墾地であつて、立木竹等を伐採したまま放置されている地域も相当に現存するのであるから、これを右開墾地に対する附帯地とすることができる。内地における附帯地の開墾地に対する面積の標準割合は三割であるから、大鳴石地区の開墾地に対する附帯地としては、右未墾地六三町五反八歩をあてれば十分である。のみならず、大鳴石地区の附近には合計七二六町四反二畝二九歩に及ぶ国有地があるから、右開墾地二二三町三反五畝六歩に必要な附帯地はこの国有地内に自由且つ十分に求め得られるのである。しかも本件土地は右開墾地から二粁ないし二粁半も離れて営農上不便な私有地であるから、これを買収する必要は少しもないからである。

(四)  仮りに本件土地のうちの右一三二町八反四畝一二歩の部分が大鳴石地区の開墾地二二三町三反五畝六歩に対する附帯地として必要であるとしても、その面積は右開墾地の五割強に相当し、附帯地の買収としては、その面積が著しく過大である。

(五)  大鳴石地区の開拓計画は昭和二一年中自創法施行(同年一二月二九日)以前に食糧増産のため緊急開拓として実施されたので、自創法にいわゆる自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進するための必要上なされたものでないから、本件土地を自創法第三〇条によつて買収することは許されない。

(六)  本件土地の周囲にある山林地域が現に土砂流出防備のための保安林又は造林臨時措置法による造林地に指定されていることによつても明らかなように、本件土地は保安林として保存することは勿論、さらに造林計画をたてその改良増進を計ることが絶体に必要であつて、それが開墾予定地又は附帯地として買収されるときは、治山治水に重大な支障をきたすことになる。

(七)  本件土地とこれに接して控訴人が所有する約三六〇町歩の奥地林の一帯は控訴人の先代以来三〇有余年にわたり造林に苦心してきた山林であつて、本件土地はその位置及び地勢等からいつて右山林一帯の心臓部にあたるから、それが買収されるときは、奥地林の経営まで不可能となり、控訴人の唯一の家業である林業の経営は致命的打撃を蒙ることになる。

被控訴代理人は控訴人の右主張に対して次のように述べた。

(一)  本件土地一六五町七反六畝一二歩のうち控訴人主張の三二町九反二畝の部分は開墾予定地として、残地一三二町八反四畝一二歩の部分は本件土地を含む大鳴石地区の開墾地に対する附帯地として買収したものである。

(二)  開墾予定地として買収した右三二町九反二畝の部分が開墾適地であることは、その地上の立木竹等を行政代執行により伐採した後、大鳴石地区の開拓民が開墾を実施し、現に農作物を作付けしていることによつても明らかである。

(三)  大鳴石地区(本件土地を除く)の総面積は二九四町一反三畝三歩、その在住開拓民の戸数は一〇一戸その開墾地の面積は二二六町六反九畝であるから、右地区の総面積から開墾地の面積を差引いた残地六七町四反四畝三歩は右開墾地に対する附帯地に相当するわけであるが、大鳴石地区における標準農家の完成期における営農規模からいえば、その薪炭林採草地は一戸当り一町四反五畝、その一〇一戸分合計一四六町四反五畝を必要とする。故に右の六七町四反四畝三歩では大鳴石地区の附帯地として明らかに不足をきたすから、本件土地のうちの右一三二町八反四畝一二歩の部分を本件土地を含む大鳴石地区の附帯地として買収することは絶体に必要であり、その面積も過大であるとはいえない。

なお、大鳴石地区附近にある国有地は、林野庁所管の国有財産であるから、控訴人がいうように、大鳴石地区の附帯地として自由に使用することはできない。

(四)  大鳴石地区の開拓は、自創法施行前に、緊急開拓事業として着手されたものであるが、自創法が施行されるや直ちに、自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進するための必要から、移管換が決定された。故に本件土地を自創法第三〇条によつて買収しても、なんら違法ではない。

(五)  本件土地の近接地が土砂流出防備のための保安林又は造林臨時措置法による造林地に指定されたことは認める。しかし本件土地を買収しても治山治水上なんら支障をきたすことがない。殊に本件土地の大部分は、開墾しないで薪炭林採草地として利用するのであるから、なおさらのことである。

(六)  本件土地とこれに接する約三六〇町歩の奥地林の一帯が控訴人の先代以来林業を経営してきた山林であることは認める。しかし本件土地が右山林一帯の心臓部にあたるとはみられないから、本件土地を買収しても控訴人の林業経営に致命的打撃を与えることにはならない(立証省略)。

三、理  由

一、本件に対する当裁判所の事実認定及び法律判断は、左記の外は、原判決の理由において説明するところと同一であるから、これを引用する。当審における控訴本人の供述中右認定に反する部分は信用できないし、控訴人が当審において提出援用したその他の証拠によつても右認定を覆すに足りない。

二、本件買収処分は自創法第三〇条の濫用であるから無効であるとの控訴人の主張(本件買収処分の無効原因の第二)については、次のように考える。

(一)  本件土地一六五町七反六畝一二歩のうち群馬県吾妻郡坂上村大字大戸菅原四、七七四の二原野外二二筆の一部三二町九反二畝の部分が開墾予定地として買収されたことは、当事者間に争がない。しかるところ、控訴人は、開墾予定地として買収された右三二町九反二畝の部分は開墾不適地であると主張する。当裁判所がその方式及び趣旨により真正に成立したと認める乙第二号証、原審及び当審証人安藤重郎の証言、原審における証人清水倫太郎、同橋爪与太郎の証言及び控訴本人の供述の一部並びに原審及び当審における検証の結果を総合すると、右開墾予定地は気温が比較的低く、概して西傾斜面に位し、火山灰性砂質壤土の土質であるが、開墾不適地ではなく大豆、ばれいしよ、陸稲等の作付けが可能であつて、現に昭和二六年四、五月中行政代執行により地上の立木竹が伐採された後(その大部分の土地はまだ開墾されていないが)その一部分は既に開墾され、麦、大豆、とうもろこしが栽培されていることが認められ、右認定に反する原審証人大塚時治、同川又文治、同石井清及び同木檜三四郎の証言並びに原審及び当審における控訴本人の供述部分は信用できない。故に開拓不適地を開墾予定地として買収したということはない。

(二)  控訴人は、右開墾予定地に対する附帯地の買収としては本件土地の面積が著しく過大であると主張する。成立に争のない甲第一一及び第一二号証、原審証人安藤重郎の証言により真正に成立したと認める乙第三及び第六号証並びに原審証人安藤重郎、同清水倫太郎、同浅野岩男及び同大塚時治の証言によると、本件土地のうち右開墾予定地を除く残地一三二町八反四畝一二歩の部分は、本件土地を含む大鳴石地区の開墾地二五六町二反七畝六歩――大鳴石地区(以下単に大鳴石地区というときは本件土地を含まない大鳴石地区を指称する。)の開墾地二二三町三反五畝六歩及び本件土地のうちの右開墾予定地三二町九反二畝――に対する附帯地として買収されたことが認められる。しかも、後に説明するように、大鳴石地区の開墾地に対し必要とする附帯地の面積の標準割合は五割八分を相当とするから、控訴人が本件土地一六五町七反六畝一二歩を右開墾予定地三二町九反二畝に対する附帯地として買収されたものであるとし、これを前提としてその買収面積が著しく過大であるとする控訴人の右主張は明らかに理由がない。

(三)  控訴人は、本件土地のうちの一三二町八反四畝一二歩の部分の買収は不必要な土地を買収したものであると主張する。大鳴石地区の総面積からその開墾地の面積を差し引いた残地が右開墾地に対する附帯地に相当することは当事者間に争がなく、前掲甲第一一及び第一二号証並びに乙第三号証及び第六号証によると、控訴人が主張するように、大鳴石地区の開拓民の戸数は一〇一戸(この点は当事者間にも争がない)、その総面積は二八六町八反五畝一四歩、その開墾地の面積は二二三町三反五畝六歩であることが認められる(大鳴石地区の総面積及びその開墾地の面積が被控訴人主張の如き面積であることは証拠上認められない。)から、右二八六町八反五畝一四歩から二二三町三反五畝六歩を差し引いた残地六三町五反八歩は大鳴石地区の開墾地に対する附帯地の面積とみることができる。しかして、成立に争のない甲第三号証の一及び四並びに原本の存在及びその成立に争のない同号証の三によると、およそ附帯地(薪炭林採草地)の面積は、集約的な農業経営を前提として営農上の必要度及び当該地方の標準的な農業経営を勘案し、これを決定しなければならないのであつて、その開墾地に対する面積の割合も一率ではなく、必ずしも内地において三割を標準としなければならないものでないことが認められる。しかるところ、前掲乙第二号証によると、大鳴石地区における開拓民の標準農家一戸当りの開墾地二町五反に対し営農上必要とする附帯地(薪炭林採草地)の面積は、附近の既存農家の営農概況等附帯地決定の基準から考えて、一町四反五畝を相当とすることが認められるから、その開墾地に対する附帯地の面積の割合は五割八分となり、この割合を標準として計算すると、大鳴石地区の開墾地二二三町三反五畝六歩に対し営農上必要な附帯地の面積は合計一二九町五反一五歩となる。故に前記六三町五反八歩を以て大鳴石地区の開墾地に対する附帯地として十分な面積であるとはとうていいえないわけである。又前掲甲第一一及び第一二号証によると、大鳴石地区附近(坂上村及び倉田村の両村地域内)に合計七二六町四反二畝二九歩に及ぶ国有地が存することは明らかであるが、この国有地が果して大鳴石地区の開墾地に対する附帯地としての用途及び位置(前掲甲第三号証の一によると、附帯地の位置は開墾地に接続又は近接しなければならない。)に適するか否かについては、これを明らかにすべきなんらの証拠もないから、右の如き国有地が存することのみでは、たとえ本件土地が右開墾地から二粁ないし二粁半にわたる私有地であるとしても(本件土地が大鳴石地区の開墾地に接続又は近接していることは、前掲乙第三及び第六号証により明らかである。)、本件土地のうちの右一三二町八反四畝一二歩の部分を買収する必要がないとはいえないわけである。

(四)  控訴人は、大鳴石地区の開墾地に対する附帯地としては、本件土地の面積が過大であると主張する。本件土地のうち開墾予定地を除く残地一三二町八反四畝一二歩の部分が本件土地を含む大鳴石地区の開墾地二五六町二反七畝六歩に対する附帯地として買収されたこと、大鳴石地区のうちにすでに六三町五反八歩の附帯地の存することは、前記認定のとおりである。しかして、大鳴石地区の開墾地に対し必要な附帯地の面積の前記標準割合(五割八分)によつて計算すると、本件土地を含む大鳴石地区の開墾地二五六町二反七畝六歩に対し営農上必要な附帯地の面積は一四八町六反三畝二三歩となるから、本件土地を含む大鳴石地区の開墾地に対する附帯地としては、右(附帯地として必要な面積)一四八町六反三畝二三歩から(既に存する附帯地の面積)六三町五反八歩を差し引いた残地八五町一反三畝一歩の面積を買収すれば足りるのである。してみると、本件土地のうちの一三二町八反四畝一二歩の部分は、本件土地を含む大鳴石地区の開墾地に対する附帯地の買収としては、その面積が過大である(本件土地のうちの右一三二町八反四畝一二歩の部分から、更に原判決説示のように本件買収処分が無効であると認められる一四町二畝一五歩の部分を差し引いた残地一一八町八反一畝二七歩の部分でさえ、なお右附帯地の買収としては、その面積が過大である。)。従つて、本件買収処分は、必要以上の面積の附帯地を買収したかしがあるものといわなければならないが、附帯地の買収面積がこの程度に過大であることは、本件買収処分の重大なかしとは認められないから、本件買収処分を自創法第三〇条の濫用として当然に無効であると解することはできない。

(五)  控訴人は、大鳴石地区の開拓計画は自創法施行前に実施され、同法所定の目的のためになされたものでないから、大鳴石地区の開墾地のために自創法第三〇条により附帯地を買収することは許されないと主張する。本件土地のうちの三二町九反二畝の部分は開墾予定地として買収され(自創法第三〇条第一項第一号)、残地一三二町八反四畝一二歩の部分は大鳴石地区の開墾地及び本件土地のうちの開墾予定地に対する附帯地として買収されたもの(同法条項第七号及び第八号)であることは前記認定のとおりであり、大鳴石地区の開拓計画が自創法施行前に実施されたものであることは当事者間に争のないところである。しかし、自創法第三〇条第一項第七号及び第八号には、開発に供しようとする未墾地若しくは政府所有地の開発後における利用上必要な土地(同条項第七号)のみならず、農地の開発上必要な土地(同条項第一号及び第三号の土地を除く)(同条項第八号)は、自作農を創設し又は土地の農業上の利用を増進する目的のため、所謂附帯地としてこれを買収することができる旨を規定している。この第八号の規定の趣旨からすれば、自創法施行前に、開拓された土地のためといえども、その開発上必要な薪炭林採草地その他の土地は、前記目的のため所謂附帯地としてこれを買収することができるものと解すべきであるから、本件土地を自創法第三〇条により買収することはなんら違法ではない。

(六)  控訴人は、本件土地の買収は治山治水上支障があると主張する。原審証人大塚時治、同川又文治、同石井清、同橋爪与太郎、同宮下茂夫、同浅野岩男及び当審証人安藤重郎の証言に、本件土地に近接する山林地域が土砂流出防備のための保安林又は造林臨時措置法による造林地に指定されていること(当事者に争のない事実)を合せ考えると、本件土地を含む一帯の山林が吾妻、群馬両郡の水域に対する直接の水源涵養林であつて、本件土地は治山治水に重要な関係のある山林ではあるが、地上の立木を一時に全部伐採しない限り、本件土地の一部を開墾し、その他を附帯地として利用しても、治山治水に支障をきたすものでないことが認められ、右認定に反する原審証人木檜三四郎の証言は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠がない。本件土地の買収は治山治水に支障があるとは断定できない。

(七)  本件土地とこれに接して控訴人が所有する約三六〇町歩の奥地林が控訴人の先代以来経営してきた山林であることは、当事者間に争がない。控訴人は、本件土地の買収は、右奥地林の経営まで不可能にし、控訴人の林業経営に致命的打撃を与えると主張する。しかし、これに添う原審証人石井清の証言は、当審証人安藤重郎の証言に比して信用できないし、他にかかる主張事実を認めるに足りる証拠がない。むしろ右安藤証人の証言によると、本件土地を利用しなくても、材木の搬出も可能であるし、右奥地林の経営には支障がないことが認められるから、控訴人の林業経営が本件土地の買収により致命的打撃を蒙るとはいえない。

以上の次第で、本件土地のうちの一三二町八反四畝一二歩の部分の面積が附帯地の買収として過大であること以外には、本件買収処分になんら控訴人主張の如きかしは認められないし、右買収面積が過大であることも自創法第三〇条の濫用として無効であるとは認められないのであるから、本件買収処分の無効原因の第二としての控訴人の主張は採用することができない。

三、群馬県吾妻郡坂上村大字大戸字石畦四、七七五番の七山林一四町二畝一五歩の買収処分につき原審のした判決に対しては上訴がないから、この分に対しては判断しない。右以外の土地買収処分を無効とすべき理由のないことは上述の通りであるから、その無効確認の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊地庚子三 吉田豊)

(目録省略)

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